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寝室の隣は、すぐ居間だった。
結婚が決まって、優は家事の為に仕事を辞めた。
ソレは純粋に嬉しかったし、朝起きると、こうやってテーブルの上にご飯が並んでいるというのは相当幸せだと思う。
毎日俺より早くに起きて、家事に勤しむ優は、本当に素敵な奥さんだ。俺は恵まれてる。
「……ね、あっちゃん。お仕事、大変?」
「ん~、どした、急に?」
「あっちゃん、疲れた顔してるよ?大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。そんなに、大変ってわけじゃない」
嘘だった。入社から三年になる俺は、まだまだ新人の扱いだ。
だから上司にこき使われるし、しかも入社一年、二年の新人達の面倒も見なくちゃいけない。正直、疲れていた。
でも、それぐらいは誰だって同じだ。いやむしろ、俺は社内での人間関係が悪くない分恵まれている。
「そっか、なら良いけど……あっちゃん、無理しないでね?」
「あぁ、ありがとな。……つか、お前もあんまり無理すんなよ?家事とか、大変だろ?」
「うぅん、あっちゃんの為だと思えばよゆーだよ?」
「……そうか」
コイツのこういうところは、本当に可愛いと思う。けど、相変わらずドキドキはしなかった。
――朝食を終えて、家を出る。
「んじゃ、行ってくるな。今日は多分、定時に帰れると思うから」
「ん、頑張ってねあっちゃんっ。頑張ったら、ご褒美あげちゃうよ?」
「……ご褒美?」
「――夜の、ご・ほ・う・し?」
「……アホか」
つか、なんで疑問型なんだ。
「あははっ、相変わらずあっちゃんは照れ屋さんだっ。可愛いねっ」
「うっせ、可愛いとか言うんじゃねぇ」
ぶっきらぼうに家を出ようとして……ふと、立ち止まる。
「ん?どしたの、忘れ物――んっ」
不意打ち気味に、キスをしてやった。
「んじゃ、行ってくるわ」
行ってきますのキスってやつだ。別に、せがまれたわけじゃないけど……何となく、そうしてやりたくなった。それだけだ。
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