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*
――そんなこんなで一日を終え、帰宅する。
「ただいま」
朝に宣言したとおり定時に帰れた事に安堵しながら玄関に入って……ふと、違和感が。
(……なんだ?)
小さな違和感を抱くが、しかしその正体までは分からない。
分からぬままにキッチンを横切り、リビングに繋がるふすまを開けようとして――
(そうだ……ふすまだ)
何で俺は、ふすまを開けようとしている?簡単だ、ふすまを開けなくちゃリビングに入れない。
じゃあ、逆に……どうして、ふすまが閉まってるんだ?いつもは、開け放たれているはずなのに。
その、いつもは開け放たれている空間が閉まっているという光景が……たまらなく、違和感だった。
(……いや、だから何だ?)
そうだ、別にふすまが閉まっていることだってあるだろう。単なる、優の気まぐれに決まっている。
そう……別に、銃を持った強盗が立てこもっているわけじゃあるまいし。こんなに、不吉な予感を抱く必要はないはずだ。
そう思い、しかし嫌な予感を抱えながら……俺は、そのふすまを開け
――パァン、と
まるでクラッカーを鳴らしたようにも、銃声にも聞こえる音が……俺の鼓膜を、震わせた。
――あと、
「あっちゃん、お誕生日おめでとうっ!」
そんな、優の声も耳に届いた。
「って、え……誕生日?」
見れば、机の上にはケーキが置かれている。形が少し歪なのは、手作りだからだろうか。
部屋一杯の飾り付けに意識を奪われる俺に、優はしてやったり、って顔で。
「今日、あっちゃんの誕生日だよ?お仕事大変で、忘れちゃった?」
「あ、あぁ……うん、完璧忘れてたわ」
誕生日のケーキに、部屋一杯の飾り付け。
俺がいない間に優はそれを準備して、俺を驚かせる為にふすままで閉めて――
そう考えると、なんだか胸の奥が温かくなった。
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