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朝日零れる窓は、開けっ放し。まだ穏やかな光が当たらない、部屋の隅にリンクはうずくまっていた。
まるで光を避けるように。暗くて、じめじめしてる部屋の隅。ただうずくまる。
まっぷたつに分かれた机、中の水が絨毯を濡らす割れた花瓶、壁にはいくつもの斬傷や引っ掻いた後。ボロボロになったカーテンは、心地よい風にゆらゆら揺れていた。
リンク「………………」
まだ破壊衝動は、おさまらない。これだけ暴れて物を壊し、剣を投げ捨てたのに…。
自分は何を求めている?
何に飢えて泣いている?
なぜすっきりしないの?
自分は血を求めている?
真っ赤で甘い甘い血を?
確かに物を殺したって
血というものは流れない
なら…人間を殺せばいい
リンク「だ…駄目だ…。そんな事をしたら…、仲間が…」
もとの世界では、ずっと独りでの旅だった。人ならざる力、滅びるはずの世界の運命も変えてしまうから。
スマブラの世界に招待されてから、同じ"力"を持つ"異形"の人達。彼等は自分を"特別扱い"などせず"仲間"、"友達"として接してくれた。
そんな大切な人たちを…失うなんて考えただけで吐き気がする。
しかし、あの頃に比べて自分は、かなり"殺生"を押さえ込んでいるのも事実だった。
もとの世界には、それなりに強いモンスターもいたし、気が向けば、気分次第でいつでも殺せる対象がたくさんあった。今は、ない。
全身を巡っているはずの血が凍っているみたいに冷たい気がした。やっぱり春でも、早朝は寒い。
近くに落ちていたカミソリを手に取り、左腕の袖をひじまで捲り上げた。
"勇者"と名乗るには、白すぎる手首。自分だって人間なんだ、なら、 死ねるのかな?
そのままカミソリを引っ張った。確かに痛い。予想以上に食い込んだみたいで、血が溢れて絨毯を染め上げていく。
あぁ、心臓がうごめくたびに体の中の凍った血が外に流れてゆく。痛い、痛い。
自然と笑いがこみあげてきた。これだけ自らを傷つけたって死ねない自分。
もはや人間ではない、と自嘲じみた微笑みをうかべながら、血が流れる様子を観察した。
ばぁん!!
鍵がしまっているはずの玄関が乱暴にあけられた。というか、蹴破られた。
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