刻印のお礼(布都彦×千尋)

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「でもね、手相って日々変わっていくんだって。だから今は当たってても一年経ったらかなり変わるからあんまり気にしなくていいみたい」 言い終わって、すこんと突き抜けた空を見上げて、自由な風に時間の流れをのせる。 縛られることなく、どこへでも、どこまででも。 生ある限りの無限を、手に入れた今は何もかもが祝福の音色。 「手相を見て頂いたお礼に何かさせていただけないでしょうか」 「え? 布都彦が?」 「左様にございます」 本当に律儀な性格だと思う。 でもこちらが遠慮すると布都彦がいつまでも恐縮したままだということを千尋は知っていたため、口を開いた。 「時間が許す限り、布都彦と一緒にいたい」 眠る時間もまともに取れないような執務が山のように溜まっていても、根回しがうまくいかなくて朝議が大混戦になってしまっても。 これが終わればまた布都彦に会える、話せると思うだけで嫌な時間の見え方さえ違ってくる。 瞠目した布都彦に、何か無謀な事でも言ったかと思考を巡らせるが、これといって思い当たる節もない。 「布都彦と一緒にいられれば、今は他に何もいらない。王として仕事はきちんとやるけど、そのくらいのご褒美なら平気かなって…布都彦?」 目を白黒させて頬まで紅潮させている布都彦に、どうやら自分の発言がまずかったらしいと薄々勘づいた。 「姫、それではい、意味がありません…!」 「どうして?」 散々ためらった挙げ句紡がれた答えは。 『それでは、私の褒美になってしまいます――――』
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