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室から出て、伸びをする。
今日も天気がいい。
新緑が枝垂れるは壮観で、少し強めの日差しが縁に簀子に回廊に、惜しみなく注がれる。
「よし、頑張らなくちゃ」
本当は、今日は久々の休日。
十日に一度、公に休みをもらえたが、今は休んでいる場合ではない。
まだ復興のさなか、一番上がお休みというのは非常によろしくないと千尋自身は思っていた。
日々地方からの陳情は上がってくるし、税収を増やすために収穫を底上げしなければならないし、行商人のために道を整備しなければならない。
衛生環境を整えるために水路を分けたり、薬師を揃えたり、足りないものは多い。
何より識字率が低すぎる。
札を立てても民が字を読めず、噂が噂を呼び収拾がつかなくなることが幾度もあった。
塗り替えられてしまった記憶。
王として、認められるために。
さっと顔の横を何かが掠めて、千尋の髪が舞う。
「な、何?」
振り返れば、つきあたりの柱の上部に膨らみ――――――否、巣だ。
「つばめだ……」
気がつかなかった。
もう数羽の雛がちょこちょこと頭を出したり引っ込めたりと、せわしなく動いて餌をねだっている。
可愛らしい動きに思わず口元がゆるんでしまった。
季節はもう狂わない。
きっと、この雛達は飛んでいける。
「おや……我が君」
「……柊?」
かつ、とやや後ろで足音が止まった。
「今日はお休みと伺っておりましたが……随分お早いお目覚めですね」
「今休んでなんていられないわ。常世の国だって早めに食い止めたとはいえ荒れてしまったし…」
柊の手腕は実に見事だった。
私のやりたい事を一言えば十先回りして準備しておいてくれる。
常世の国の怒りを宥めすかし、禍神(まがつかみ)を制すのに時間がかかって申し訳ないと頭を下げて丸く収めてしまった。
現在は食料を主に援助し、領土を全返還することも叶った。
この世界では柊が表立って常世につかなかった分、狭井君の不信感はやや薄い。
一ノ姫と羽張彦を失ったものの、二ノ姫を守り敵(かたき)を取ったという形になったからだ。
あれから二月、柊は宰相の一人になるまでに至った。
もう季節は初夏、夏を過ぎれば、空になるはずの巣を見つめる。
「憎らしいですね…他の男をお想いになられているとは」
「な、思ってないよ!」
反射的に言い返す。
私が欲しかったのは、柊だけ。
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