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柊のいる未来がまるごと欲しかっただけ。
言葉に言葉を隠して、でも嘘だけは――――――言わなかったひと。
それ以外に、想える者などいはしない。
「貴女を想い、導き、守り、命を落とした私が憎いのです。それを成し得たのは、私ではない。姫の心はいつも、記憶の私に向いておられる」
「そんなこと、ないわ」
あるはずがない。
何故そんなことを、と思う。
「どんな柊も、柊に変わりはないよ。柊を死なせたくなかっただけ。今の柊の中に、貴方を助けたいと思わせてくれた柊が生きてる。それだけで、私は幸せ」
そう……死んでなんか、いない。
手の届くところに、柊がいて。
誰も知り得ない未来を二人で歩んでいける。
気配が揺らいで、そうっと、くるみ込まれるように抱きしめられる。
仄かに香る、馴染んだ匂い。
風早とは違う安堵感。
かつては必要以上に触れてこなかった柊との距離が、今、なくなる。
「つばくらめのように私の喉が朱くなったなら、貴女も喉を朱く染めて下さいますか?」
囁かれた言葉に、息を止める。
なんて物騒な、柊らしい言葉だろう。
逝くなら共に、と。
本当なら怒るべきかもしれない。
ああ……つばめの記憶のことだったのだ。
巣立てもしない雛を生かそうとした――――――私は、後悔はしていない。
「……いいよ」
つばくらめの巣には今、番(つがい)がいた。
朱い喉を並べて、子に餌をやる。
その光景に嫉妬したように、千尋の瞼に口づけが一つ落とされた。
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