ep:1

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「もう無駄だよ」 その水溜りの上に、どこに潜んでいたかも分からなかった、犯人らしき人間……少女の姿があった。――いや何なのかは分からない。それよりも頭の中は両親がどこに行ったのかということしかなかった。ただ、その少女の容姿を見ると、長い黒髪は左右に分けて縛られ、白く華奢な体に装飾の激しい真っ黒い服を着ていて、こんな場面でなかったら、多分純粋に可愛いと思っていただろう。 「言え。俺の両親はどこにいる? 親父とお袋をどこへやった?!」 「強いて言えば、天国?」 犯人であることと両親を殺したことを肯定するような台詞。それを聞いた瞬間理性が飛んだ気がした。――コイツを殺して親父とお袋と同じ目にあわせてやる! 「うをおおおおお!!」 相手が少女ということなど気にすることはできない。殴りかかったその手は、しかしその少女に届くことは無かった。 「甘ぇよ雑魚」 声のする方を振り返ると、凛として立っている少女の姿があった。もう一度殴りかかろうとした拳を、戻ってきた理性で押さえつける。 「ほう、賢明な判断だ」 挑発するような少女の喋り方。だが、怒りを抑えて一つだけ訊く。もはや返される単語は一つしか思い浮かばなかった。 「何者なんだよ、お前」 「お前の両親の仲間に封印されてた者だよ。勝手に付けられた名前を借りるなら“魔王”」 ただ、その存在が何故うちを襲ったのか? その疑問さえも晴らす回答を少女、いや“魔王”は言ってのけた。 「オレにここまでの屈辱を与えてくれたんだ、皆殺しじゃ済まねえよ。それにお前、一番ムカつく奴に似てんだよ!」 そういうと魔王は俺の傍まで来て、……ああ、これほど死を覚悟したことは無いな。俺はそっと目を閉じて、その瞬間を待った。 「やめだ」 しかしその瞬間は魔王の気まぐれによって来なかった。目を開くと魔王は既に眼前には無く、俺はただ一人取り残された。
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