ep:1

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「復讐心に付け込む事が良くないのは、おじさんもよく知っている。だからこそ、嫌ならきっぱりと断ってもらいたい。ただ、今回の件で多分次は僕、そして、とばっちりを食らうようならその次は君が狙われてしまうと思う。だから、その前に、渡しておきたいものがあるんだ」  真剣な表情に嘘や子どもを騙すというような印象は受けなかったが、念の為彼に一つ聞いてみることにした。 「因みに、その魔王ってどんな姿をしてたんですか?」 「おじさんが見たときは、黒髪ツインテールで、こう言っては何だけど、かわいらしい女の子だったよ。世間の魔王に対するイメージが人間じゃなかったから、初めて見たときは吃驚したね」 俺が見た少女と外見的特徴が一致した。しかしだからこそ胡散臭さは更に拭えないものであった。 「俺のところに来たのも、黒髪ツインテールの少女でした。服はゴスロリみたいな感じで……正直、あんな場面でさえなければ、可愛いと思えるような容姿でした」 言葉遣いは荒かったですが、と最後に付け足す。それを聞いて男性は、ああやっぱり魔王だと、悔しさに震える握り拳を隠そうともせずに言った。 「無理強いするわけではないけれど、もし君にその気があるなら、ここにあるおじさんの家に来てくれ。さっき言った渡したいものを渡すから」  名刺の裏に、最寄り駅とそこからの地図を描き、俺に寄越す。来る時は何時でも良いからねと付け加えて去っていった。そういえば名前を聞いていないと一瞬思ったが、寄越した名刺で名前を知ることができた。  さて、これからどうするべきなのか。胡散臭い話を信じて、あの魔王少女を倒しに行くべきなのか。ただ、それを信じるならば、あの圧倒的な威圧と、ほんの少しだけ見せられた強さも信じなくてはならず、どう考えても俺が倒せるような相手ではないように感じられた。数十年後に復活させはしたものの、相討ちにした勇者ケイトは一体どういう方法を取ったのだろうか。――なあ、教えてくれよ、勇者ケイト……。
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