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翌日、俺は自宅の最寄り駅から電車で二〇分程離れたところにある駅に来ていた。平日だが、学校側にも事情は伝わっており、俺が休む旨を伝えると、すぐに対応してくれた。ここに来たと言うことは、つまりあの意味の分からない出来事を一旦信じるということなのだが、――それはつまりあの魔王が両親を殺したと言うことも認めないといけないわけで……そこまでに考えが至った途端、言いようのない悲しみが湧き、それを抑えるように、まだ何処かで生きているのではないかという淡い希望を無理矢理引きずり出した。
この駅から、昨日話し掛けて来たあの男性(名刺によると、御岳譲次郎という名前らしい)の示した目的地までは五分とかからず、寧ろエレベーターでその階まで行く時間のほうが長く感じた。眩しい太陽の光に照らされて神々しく聳え立つ建物の、その一番上。そこに彼の住居兼オフィスがある……筈だった。――ああ、何故こうも無教育に、それでいて俺の家よりも細かく破壊の限りが尽くされているのだろう? ああ、分かってるくせに、その向こうに見たくもない可愛らしい少女がいることを知っているくせに、どうして俺は歩を進めてしまうのだろう?
――この後どんなことが起こるか、半ば想像できているくせに!
奥に進むと、案の定辛そうに倒れている御岳さんの姿を発見した。ただ、昨日の、あの思い出したくなくても目に焼きついてしまった酷い赤の惨状は起こっていない。
「大丈夫ですか?!」
「あ……あれを……。ケイトさんの……、勇者ケイトの、形見だ」
御岳さんは、自分のことなどお構いなしに、震える指で何かを指していた。その先には、粉々にされた机や椅子や電化製品などに混じって、唯一何の損傷も無いものがあった。それがぱっと見て剣だということは分かる。しかし、それはファンタジー物で見るような凝った意匠のある、如何にも重そうな大剣。それを武器に使うというのは、現実では有り得ないような代物だった。
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