第一章

2/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
  「なんか、みんな浮足立ってない?」  入学式から約二週間後の昼休み。手製の弁当(ほとんど冷凍食品だけれど)を食べながら、ぼく──伊佐名木空(いざなぎそら)は、同じように昼御飯を食べている三人に聞いた。 「あ、そっか。くぅちゃん知らなかったっけ」  右隣から声。  ぼくのことを、北海道の某都市の川に住み着いたラッコみたいに呼んでいる彼女の名前は、安西稲美(あんざいいなみ)。  茶髪のショートカットなのだが、先端が白い部分が何房かある。  本人曰く『生え変わりの時期』だそうだ。 「このあとの午後の授業が、皆さん楽しみなんですよ」  澄んだ声で稲美さんの言葉を繋いだ彼女は海原百合子(うなばらゆりこ)。  宝石のように綺麗なエメラルドグリーンの髪を縦ロールにしている。  お腹が減ると、縦ロールがクロワッサンかチョココロネに見えるから不思議。 「次の授業って……能制でしょ?」  でも、そこまで楽しみにできるものだったかな? 担当の先生は陶芸家みたいな格好で面白かったけど。 「オリエンテーション聞いてなかったのか? 今日の授業でクラスの能力確認するって言ってたろ?」  ぼくの弁当箱からほうれん草入り玉子焼き(これだけは手作り)を摘みながら喋っている彼は火蜥蜴劫火(ひとかげごうか)くん。  いつもはストレートにしている長い赤髪を、今は後ろでまとめている。  見た目は完璧に女の子なのだが、性別は男らしい。未だに半信半疑なのだが。  最初聞いたときは素でびっくりしたね。 「そういえば……そうかも?」 「なんで首を傾げる」  劫火くんが海老シューマイを食べたので、ぼくは彼の弁当の玉子焼きを食べた。甘かった。  なぜ、それほど能動的に動かないぼくが二週間という短期間で一緒に弁当を囲む友人を得られたかというと、入学式後のクラスでは五十音順で並んでいたので、稲美さんと百合子さんに挟まれていたぼくに二人が話しかけてきたのだ。  そこに劫火くんが加わり、今のような状態に至るというわけだ。  男二人女の子二人なのだが、劫火くんは見た目が女の子なので、ギャルゲの主人公になった気分だ。ギャルゲやったこと無いけれど。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!