落日

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古臭い本だ。 中身はない 焼けたページをめくる シミだらけだ。 あとはのたうちまわった荒々しい走り書きや 丁寧に埋められてはいるが ベクトルを無視した蠢く集いだ。 意味はない。 変だな? ここだけなにもかいてない? こんな中途なところで? にしてもひどいシミだ… くだらない。 朽ちたセメントに投げ捨てる …ジジジジッズワンジジジジ… 一陣の風 なんだ…? 耳鳴りがする 頭にアノ声が響く "ここにはなにも描かない" "ここにはなんの色を置こうとはしない" "ここにかつてあったものの全てを乗せる" "ここにはある男の正気が残っている" "ここにはあの女の禍々しい慈しみを埋めた" "ここには在りすぎる" "ここが憎い" "ここが…………" "ここが懐かしくてたまらない" 振り返ると本はあのページを開いたままで粉塵にまみれている そう。 意味はない。 仮にあったとしても その必要はない。 コートの襟を正し、 廃屋を後にする。 もう陽が落ちる。
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