殿さまと書記

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 胡水(こすい)高等学校には、殿がいる。  とは言うものの、血筋とかそんなものではない。  生徒会長の戸ノ上(とのうえ)は、明るい性格と嫌なかんじのしない俺様ぶりや、そこそこ優秀な手腕を認められ、いつしか名字とお殿様を掛け合わせて「殿」と呼ばれていた。 「殿ー、風紀委員からのアレがきてませーん」  アレ、という単語に首をかしげ、投書のまとめ? と聞くと、それそれ、と返ってくる。  自動販売機設置のための予算を計算している木田は、返事こそすれこちらは見ない。  予算案は先生と相談しながら作るんじゃなかったのか。 「またか! 佐倉のやつ生徒会室に近寄ろうとしないもんな」 「違いますよ。殿に近寄らないだけです」 「は?」  俺が何かしたっていうのか?  いや、してない。  言っちゃあアレだが俺は結構優等生やってるし、成績だって優秀だ。  俺を嫌いなやつはいないとは言わないけど、好かれてる方だと思う。自分でそういうことを言うと気持ちが悪いが、避けられる理由がさっぱりわからん。  ……避けられる、と言うともう一人、いるにはいるが。
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