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「ただいま」
「おう、親父おかえり」
五日ぶりに愛知への出張から帰った親父にはなんらかの土産を期待していたのだが、「寒い寒い」とつぶやきながらこたつにもぐったその手には、土産の袋は見あたらなかった。
「いやぁ、すごかった」
雪の話だと思って軽く相づちをうつと、ちがうぞと笑っていう。
「幽霊に遭ったぞ。康弘なんて捻挫したし」
康弘とは、そばの一件で一緒だったいとこの父親である。親父と同じ会社で、ほかの数人も連れて一緒に行ったらしい。俺は康弘おじちゃんと呼んでいる。
話によると、康弘おじちゃんが出張先で夜中に目を覚ましたところ、何者かに強い力で掴まれたらしい。
朝起きたら、掴まれたところが青く腫れていたらしい。それも、手型がくっきり。
その場にいたアネキが「え、まじ?」と目を見開いて訊ねたので、急遽、土産の怪談が始まることになってしまった。
聞き終えた感触は、親父は康弘おじちゃんみたいな恐怖体験ではなかったが、心霊番組では聞くことはないような不思議体験である。
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