深緑の前で君は笑う

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  「なあ、お前、どうすんだよ。やっぱり――」  目の前で自らの弁当を啄みながら、唯一無二の親友こと雄馬は、僕の顔面を覗き込んできた。 「どうするも何も――やってやるさ」 「玉砕に千円」  それなりにイカした台詞を決めたつもりの僕だったけど、それは雄馬の軽い賭けで一蹴された。  ――そう、これは賭け。恐らく成功率なんか、雄馬が僕に喧嘩で勝つ確率張りに低い。要は、不可能。 「ま、するしないはお前の自由だけどよ。――あと、二週間も無いぜ、卒業まで。シュチエーションとか、考えてるのか?」 「う……」  雄馬の的を得た指摘に、僕は思わず押し黙る。特色選抜で志望高校に合格した身、本来なら考えに耽る時間ならいくらでもあるのに、何故か僕はそれを考えようとはしなかった。  断られるのが、怖いのかな。情け無い。 「亜美ちゃんって、結構天然だしさ、絶対に気付いてないぜ。お前の好意」  周囲に聞こえないように囁いた雄馬の視線は、教室の前の方で談笑する短髪の少女へと注がれる。それに吊られて彼女の輝く笑顔を見た僕の頬が無意識に弛んでしまうのは、世界の摂理なのだろうか。  ――まだ、桜が咲くには早いこの季節の、何気ない一コマである。  
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