二人二脚

2/2
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
  「この町も、受け入れてくれなかったね……」  俺の丁度顎の下から聞こえてきた少し高めの聞き慣れた声は、悲しみの色に染まっていた。  ――また、拒絶された。  町を取り囲む様に立ちはだかる防壁から、一歩踏み出せば――そこは広大な砂漠。またこの地獄を歩いて、遥か彼方の隣町まで歩いて行かなければならない。 「何も、初めての事じゃないだろ? ――次の町に行けば良い。それだけさ……アーツ」 「わかってる……わかってる。だけど、やっぱり辛いんだ。苦しいんだ。兄さん……」  ――もうあれは、十年前の事だろうか。  我が家に突如としてやってきた……〝魔女〟。頼りになった父さん、優しかった母さんを殺した彼女は、非情にも俺の弟にまで呪いを掛けた。――兄である俺にでは、なく。 「……すまない」 「兄さんが謝る事じゃ……ない」  今の君の姿は、〝人〟ではない。  〝ワーム〟――手も足も無い、辛うじて小さな翼があるドラゴンの一種。あの憎き魔女は、君をその青く醜い姿へと変貌させた。  君の尾の先と俺の首の背が一体化するという、〝オマケ〟と共に。 「さあ……行こう。余り長居はできないみたいだ」  振り向かずとも、手に取るようにわかる。町の中からの、刺々しい視線。  ――さっさと失せろ!  ――近付かないで!  ――何なのよ、貴方は!  ――気持ち悪いんだよ!  ――化け物!  ――化け物め!  ――ば、化け物!  ――化け物が……! 「そうだね……」  スルリ……  緩く俺の首に巻き付いている君は、日差しを避ける為に、同様に巻いてある薄いマフラーに潜る。  さあ、行こう。  きっと何処かにある筈さ。  俺達兄弟を受け入れてくれる、優しい町が……。  だけど――  今日も、明日も、明後日も――傍らには君しかいない。    
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!