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「この町も、受け入れてくれなかったね……」
俺の丁度顎の下から聞こえてきた少し高めの聞き慣れた声は、悲しみの色に染まっていた。
――また、拒絶された。
町を取り囲む様に立ちはだかる防壁から、一歩踏み出せば――そこは広大な砂漠。またこの地獄を歩いて、遥か彼方の隣町まで歩いて行かなければならない。
「何も、初めての事じゃないだろ? ――次の町に行けば良い。それだけさ……アーツ」
「わかってる……わかってる。だけど、やっぱり辛いんだ。苦しいんだ。兄さん……」
――もうあれは、十年前の事だろうか。
我が家に突如としてやってきた……〝魔女〟。頼りになった父さん、優しかった母さんを殺した彼女は、非情にも俺の弟にまで呪いを掛けた。――兄である俺にでは、なく。
「……すまない」
「兄さんが謝る事じゃ……ない」
今の君の姿は、〝人〟ではない。
〝ワーム〟――手も足も無い、辛うじて小さな翼があるドラゴンの一種。あの憎き魔女は、君をその青く醜い姿へと変貌させた。
君の尾の先と俺の首の背が一体化するという、〝オマケ〟と共に。
「さあ……行こう。余り長居はできないみたいだ」
振り向かずとも、手に取るようにわかる。町の中からの、刺々しい視線。
――さっさと失せろ!
――近付かないで!
――何なのよ、貴方は!
――気持ち悪いんだよ!
――化け物!
――化け物め!
――ば、化け物!
――化け物が……!
「そうだね……」
スルリ……
緩く俺の首に巻き付いている君は、日差しを避ける為に、同様に巻いてある薄いマフラーに潜る。
さあ、行こう。
きっと何処かにある筈さ。
俺達兄弟を受け入れてくれる、優しい町が……。
だけど――
今日も、明日も、明後日も――傍らには君しかいない。
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