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部屋にやっと着いた。
遠い。
いや、城が広すぎる。
扉を開ける手には、走った疲れからか余計な力が入ってしまった。
大きな音と共に扉が開いた。
「レア!!!」
それが愛する妻の名。
「……魔王様…」
彼女はゆっくりとこちらを見た。
その顔には、疲労と喜びと安堵が混ざった表情が浮かんでいる。
彼女は悪魔族の姫だ。
悪魔族の姫を妻にするの事は魔王の決まりだ。
その背中にはえている立派な羽にはいつものような凛とした雰囲気はなく、疲れの色さえ見える。
赤子の泣き声がする。
そちらに目をやると、城つきの魔族の医者が赤子を抱えている。
「元気な男のお子様でございます。」
やはり、嬉しかった。
別に男だろうと女だろうと構いはしない。
ただ、ただ嬉しかった。
この感情を他のどんな言葉を用いて表せようか。
城内を猛ダッシュした疲れも忘れられる。
「レア…あぁ…よくやったぞレア!!」
言葉らしい言葉を繋げられない。
自分の子が産まれる事はこれ程にまで嬉しい事なのか…。
あぁ、何なのだろう、この感情は。
期待だろうか。
きっとこの子なら…
私が自身の野望を果たせなくとも、代わりに果たすだろう。
そんな感覚さえも覚えた。
その場に居た全員が、
「これは親バカになる」
と思わざるをえなかったのは言うまでもない事だった。
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