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沈黙。
否定の無い沈黙は肯定と同義だ。
永遠とも思える沈黙は、僕が百年以上生きる者、つまり魔族である事を裏付ける写真は本物だと肯定した。
魔族は敵。
それが人間の考えなら、
たとえ僕が魔王でなくても人間にとってはそれだけで敵なのだ。
さらに、僕はただの魔族ではないのだ。
僕は魔王であることも否定しなかった。
ラキにとって僕は、完全に敵だと認識されただろう。
あぁ。
人間とは、なんという勝手な生き物なのだろう。
魔族を敵だと決めつけ。
父さんを殺し。
罪なき魔族を滅ぼした。
さらに、生き残った者を探しだし、『危険かもしれない』から殺すのか。
僕はこの、どうしようもない感覚と共に、
この感情を湧かせる僕の中のもう一人の存在を感じた。
それはきっと、
僕の中の魔王。
「ねぇ、ハッド。」
俯いた少女が、そのまま声を発した。
「あなたは人間を憎んでいるの?」
澄んだ声。
夜の闇に飲まれて消えた。
「……憎んではいない。」
人間を憎むなと、さんざん教わった。
だが…
「だが、許しはしない。」
驚く程の低い声。
それは、僕の口から発せられた魔王の声だった。
許しはしない。
その返事が何をもたらすかは、僕も分かっているはずだった。
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