月下狂想

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(2) 世界は完全に夜だった。 尤(もっと)も俺の世界は、と付け足すのが正しい。 駅前は不夜城めいていて夜を毛嫌いしているのがわかるのに、 そこには夜が好きな若者たちが群がっていた。 喧噪に喧噪が重なり合い、重苦しい空気。 狂っているとしか言えない雰囲気に思わず逃げ出したくなるが、 噂のお化け団地とやらはこの先なので、ここまできて引き返す訳にも行かなかった。 あれからミコさんの長い長い自説を聞き、家に帰れたのが二十時過ぎ。 我が家の門限は二十一時なのでそこから調べに行くことは困難で、 親が二階に上がるのを待ち、 抜け出しだしたのが二十三時過ぎだった。 現在はとうに、それらの出来事が昨日の事になっている時間だ。 何故わざわざそんな時間に抜け出したのかと言えば、 ミコさんの持論のせいでもある。 ミコさん曰く化け物は望月を好むらしい。 望月とは満月の事で、わざわざそう呼ぶ辺りがミコさんらしいのだが、 確かに満月の夜は犯罪が多いというデータもある。 「二桁以上の人間を証拠も残さずに隠せると思うか? そんな事が出来るのは神か化け物くらいだろ」 ミコさんはそんな事を言いながら、 遠回しに今日行け、と命令していたのだ。
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