月下狂想

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ミコさんの長話を簡潔に纏めると、 最近お化け団地で不振な人影が目撃されているらしく、 その一つがどうやら朝霧巴らしいのだ。 どう考えても人間業ではないのだから、 化け物の仕業と考えるのが普通で、 化け物に一番近い存在は朝霧じゃないか? そんな事をミコさんは考えているらしい。 警察関係者に話したら鼻で笑われるだろうが、 俺には笑うことが出来なかったからここにきている。 駅前から少し歩くと夜から闇へとシフトした。 街灯すらろくに付いていないのは、 ここらを人が歩かないからだろう。 細い路地を抜けた先の行き止まりがお化け団地こと、元市営団地だ。 数年前の耐震偽装事件で問題の見つかったこの団地は、 郊外に造られた新しい団地のせいで役目を失った。 それ以来不良の溜まり場となっていたらしいのだが、 溜まっていた不良が悉(ことごと)く行方不明になったのだから、 今、この団地には沈黙が淀んでいた。 耳を澄ませば団地先にある中級河川の水音が聴こえるが、 それは意識しての事。 先程の喧噪が恋しくなるくらいに、 ここの静けさは異様だった。
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