月下狂想

12/34
前へ
/34ページ
次へ
団地は二棟が互いに向かい合う形で建っている。 その間に雑草の伸びきった公園があり、 その空間は廃れてるとしか言いようのないものだった。 鎖の千切れたブランコ、錆び付いた鉄棒、真ん中に穴の空いた滑り台、 と公園というよりは最早お化け屋敷のように思える。 ――――不意に影が二つ視界を飛翔した。 団地の窓ガラスは蒼さの強い月を映している。 ちらほらと浮かぶ黒い雲は雨雲だろうか。 ――――一つの影が俺を睨んだのがわかった。 その瞳に引き寄せられるように、 影が昇っていった団地に足を踏み入れる。 ホラー映画で死ぬパターンだ、 と妙に客観的にそんな事を思う自分がいる。 階段は少ない間隔でコの字で上へと続いていく。 住居者のいない団地は異界と比喩するのが正しい気がする。 カツ、と階段と靴が鳴く。 心臓の高鳴りとともに、呼吸が浅くなる。 建物は六階建てだった。 屋上は七階に位置していて、 屋上へ続く錆びきったドアノブを回す。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加