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きっと、そんな予感がどこかにあったのだと思う。
だから――月下で日本刀を構える朝霧巴を見ても、なんら違和感を感じなかった。
彼女が日本刀を構える姿は酷く似合っていて、
当たり前のように自我を忘却させる。
その佇まいはまるで幽玄(ゆうげん)だった。
彼女と対峙しているモノがなんなのか俺にはわからない。
それは人間の形をしているけど、人間ではない。
それもまた、人間という事を忘れているようだった。
「――殺して欲しいならそうしてやる」
彼女は独白のように呟いて、凶器を握ったまま駆けた。
豪快な踏み込みは、けれど静謐(せいひつ)さを纏っている。
あまりに幻想的で、
あまりに夢物語りで、
一瞬で肉と骨を断ち切る斬音は、
長い間残響した。
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