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刃の軌跡が目に焼き付いていた。
それは月下を漂う花のようにすら思える美しさで、
人成らざる者の首を一太刀で切り落とした。
中空を淡い鮮血が漂う。
濃厚な血の薫りは、熟れたトマトを思わせる。
彼女は首を切り落とした余韻に浸るように、
その場から一歩も動こうとしない。
永遠を思わせる時間の流れだった。
雲だけが明日へ流れて、俺と彼女は置いてけぼりで、
――――嗚呼、そうか。
思えばこの日から、俺と彼女の時間は止まっていたのかもしれない。
先に動いたのは朝霧巴だった。
この淀んだ空気さえ澄んだものに変えてしまう彼女の雰囲気が、
見る見るうちに丸みを帯びていくのがわかる。
朝霧は鋭利だった目を優しく歪めて俺を見据える。
呼吸するという行為さえなくして、
俺はただ、彼女の目を見詰め続けた。
「こんばんは、沢村くん」
返り血で化粧した彼女は、そう言って微笑んだ。
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