月下狂想

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「昨日見たわよね」 昼休みになると理科室へと連れ出された。 朝霧はどこか怒っているように呟くと、 更に俺を睨みつける。 やっぱり怒っているらしい。 「何をしていたの? あんなところで」 俺と朝霧を隔てるのは黒い机だけで、 今にも飛び出してきそうな語気で彼女は言う。 「あそこは貴方みたいな人がくるところじゃないわよ」 朝霧の切れ味が良さそうな目が吊り上がっている。 髪と同様、完璧なまでに黒色の瞳が俺を映しながら、威嚇していた。 「後輩が失踪事件に巻き込まれたっぽくて、知り合いにあの団地が怪しいぞ、と聞いたもので」 少し事実をねじ曲げて伝えたのが良かったのか、 彼女は納得したように嘆息(たんそく)をこぼしてみせた。 「呆れたわ。沢村くんって他人に興味がないのだと思っていたけど、 私の勘違いだったのね」 何故か哀しそうに視線を俺から逸らした朝霧は、 気怠そうに机へ片肘をついて、流麗な顎を乗せる。
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