17人が本棚に入れています
本棚に追加
「昨日見たわよね」
昼休みになると理科室へと連れ出された。
朝霧はどこか怒っているように呟くと、
更に俺を睨みつける。
やっぱり怒っているらしい。
「何をしていたの? あんなところで」
俺と朝霧を隔てるのは黒い机だけで、
今にも飛び出してきそうな語気で彼女は言う。
「あそこは貴方みたいな人がくるところじゃないわよ」
朝霧の切れ味が良さそうな目が吊り上がっている。
髪と同様、完璧なまでに黒色の瞳が俺を映しながら、威嚇していた。
「後輩が失踪事件に巻き込まれたっぽくて、知り合いにあの団地が怪しいぞ、と聞いたもので」
少し事実をねじ曲げて伝えたのが良かったのか、
彼女は納得したように嘆息(たんそく)をこぼしてみせた。
「呆れたわ。沢村くんって他人に興味がないのだと思っていたけど、
私の勘違いだったのね」
何故か哀しそうに視線を俺から逸らした朝霧は、
気怠そうに机へ片肘をついて、流麗な顎を乗せる。
最初のコメントを投稿しよう!