月下狂想

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正直、朝霧のその言葉には驚いた。 誰よりも他人に無関心な彼女が、 誰よりも俺の事を見抜いているなんて思いもしなかったからだ。 「なんでそう思うの?」 「なんで? だって貴方、誰にでも優しいじゃない」 当然の事のように朝霧は俺の顔を観察する。 何もない表情はけれど儚げで、 右頬に貼られた絆創膏が目についた。 「だから、どうして?」 「犠牲の伴わない優しさは優しさじゃないもの」 その言葉にまるで杭を刺されたような気がして、俺は視線を泳がす。 昨日のはやはり雨雲だったらしく、 静かな雨が窓ガラスを叩いていた。 「沢村くん、覚えておくといいわ。平等は不平等の上で成り立っているのよ」 「何だか哲学的だな」 憧れはやはり畏れだった。 今はただ、朝霧が怖かった。 メッキを剥がされた鉄くずのように惨めな自分が、窓ガラスに映っている。 「昨日のあれって……失踪事件の犯人?」 何となくそんな気がして問うたが、 彼女は違うわ、と囁く。 「あれはただの模倣犯。しかもかなり低レベルのね」 「模倣犯?」 「そう。昨日のあれは頭しか食べていなかったの。 失踪事件の犯人はね、人間の身体を食べ尽くすから」
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