月下狂想

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まるで重力なんて関係なかった。 巴も影も、ただ上を目指す。 巴は影を殺すために 影は巴を喰らうために。 思いは違えど、利害は一致した。 ――屋上で殺し合おう 屋上はコンクリートが平らに続く無機質なものだった。 フェンスは廃れ、その役割を果たしていない。 いや、住人がいなくなった今、果たす必要がないのだろう。 両者を遮る物はなにもなかった。 向かい合い、影は四足歩行から二足歩行に姿を変える。 それは、紛れもない人型だ。 月に照らし出された影は、最早影ではない。 男、と形容するのが正しいだろう。 「一つ聞くけど、オマエは人間を喰うのか?」 巴の問いに答えが返ってくる事はなく、そのまま中空で溶けた。 「そんなに直ぐに殺して欲しいならそうしてやる」 鞘から白銀の刃が飛び出す。 反りは緩やかに、人を斬る為に特化した形状。 それは――眩しい程の凶器だった。image=238293342.jpg
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