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◇
夏休みに入る少し前。
最初は確か長引いた梅雨が終わった頃、
この地方都市で怪奇事件が起き始めた。
ただ人がいなくなるだけなのだが、
その数は八月末までに二桁を優に越え、
今ではあらゆる噂が飛び交う都市伝説にまでなっていた。
マスコミは神隠しやらで大騒ぎ。
常にハイテンションかつ馬鹿な後輩は、
「異次元に飛ばされたんですよ! きっと」
とか言い出すしまつだ。
そして俺の不幸体質がそうするのか、
その奇怪な事件に関わらなければならない並々ならぬ事情が出来てしまったのは、
夏休み明け直後の水曜日の事だった。
「――で? 後輩が事件に巻き込まれたかもしれないと?」
言葉の内容とは裏腹に、一条美虎(いちじょうみこ)先輩は、
高らかに笑いながら俺を見る。
机と椅子以外何もない文芸部室は夕日の赤に包まれ、
部屋の入り口から向かい側の席にミコさんが社長の如く偉そうに座り、
俺はドア付近のパイプ椅子に座っている。
「笑い事じゃないんですけど」
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