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「知ってますよ」
朝霧巴はクラスメートの女子だ。
俺が知る限り朝霧には友達がおらず、
いつも一人で窓の外を眺めている。
確かそう、彼女はいつもどこかに怪我を負っていた。
ある時は絆創膏、
またある時は包帯で、極めつけに眼帯までしていたっけ。
「じゃあ彼女の噂を知っているか?」
確信めいた響きでミコさんは言う。
気が付けばもう、日は落ちていた。
暗いけれど光の灯った夜が窓の外に揺れている。
そんな景色を背景に、ミコさんは棒付きキャンディーを咥える。
それがミコさんの癖であり、真面目である証だ。
「いや、知らないです」
噂は知らないけれど、彼女が普通でない事は知っていた。
馴染めないのではなく、馴染まない。
化粧をしないのではなく、化粧をする必要がない。
彼女は流行とか人間関係とか、
そんな陳腐な渦に巻き込まれないだけの強さを持っている人間なのだと思う。
強い。
強いけれどそれは普通ではないのだ。
普通の人間はそういう風には出来ていない。
だからこそ、朝霧が美しく映るのだと思う。
けれどそれは憧れであり、畏(おそ)れでもある。
彼女はそこにいるだけで、他を凌駕している人間だから。
でも、そうでなければあれだけ凛々しい在り方は出来ないだろう。
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