月下狂想

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「何だかね、ゾンビと闘っているらしいよ」 そんな馬鹿げた言葉なのに、ミコさんの顔は少しも笑ってはいなかった。 確かに―― 確かに朝霧巴という少女になら有り得そうなのだ。 だからこそ、嘲笑する事が出来なかった。 「その噂を聞いた時ね。面白いゾンビときたか! と思ったくらいだ」 ミコさんも俺と同じ考えだから、真顔で飴を舐めているのだろう。 そんな矢先蛍光灯が室内を覆った。 痛いくらいの白さに一瞬だけ目が眩み、 その隙をつくようにミコさんが俺の顔面に大学ノートを投げつけてきた。 勿論直撃だ。 「――何ですかこれは」 拾い上げて開くと、裏表紙に地図が張り付けられていた。 「最近噂のお化け団地でね。何度か警察も出向いているらしい」 確かに地図は団地の部分が赤ペンで塗りつぶされている。ん? 「なんか準備がよすぎません?」 ミコさんに相談にきたのは一時間前くらいの事で、 それまでは接触すらしていなかったはずだ。 「私の情報網をなめるなよ」 童顔はそんな事を吐き捨て、 飴を強く噛み砕いたのだった。
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