その代償

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「日向。それ……正直笑えないから」 「あはは。だよね。ほら、まだ時間あるし、トイレ行って直してきなよ。ファンデ、貸す?」 と、余りにも的確な推測に力無く項垂れる凛の肩に手を置き、日向が椅子から立ち上がる。 「ああ、良いよ。自分の使うから」 自分の席へと戻り、鞄に手をかける彼女に凛は弱々しく首を横に振った。 と、そんな頭の片隅に、常々気になって仕方の無かった一つの疑問が浮かび上がる。 「あ、そうだ。そう言う日向はどうなのよ? その……加と……う!?」 「はーい! はいはい! 早く行かないと、あんたの大好きな授業始まっちゃうよ! 一限目、日本史だったでしょ!?」 いつも自分の事ばかり言われるのも、凛に取っては釈然としない話な訳で……。 この際だからと、振り向き様に弦の名前を出そうとした瞬間、物凄い勢いで伸びてきた日向の手が凛の口を塞いだ。 「……もう。日向はいっつも私の事ばっかで、自分の事は教えてくれないんだから」 「ふふん。その方がミステリアスじゃない?」 その手を退かし、ため息混じりにジト目を向ける凛に、日向は形の良い唇の端を引き上げ意味も無く自慢気な笑いを返す。 一瞬その笑い方が要のそれと重なって見え、凛は再びガクリと肩を落とした。
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