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「……はいはい。じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃーい」
――日向って、最近要に似てきたよね……――
等とは、口が裂けても言える筈が無く。
それでも何とか席を立ち上がり、凛はファンデーションの入ったポーチを片手にトイレへと向かう。
彼女にヒラヒラと手を振っていた日向は、その背中が見えなくなると髪の毛で隠れた自分の首筋にそっと指で触れた。
凛は気が付いていないようだったが、実は、日向の地肌にも凛と同様にほんのりとした赤みが残されていたのだ。
普段なら決して日向の身体に痕を残さない弦。
しかし、昨日の彼はいつものそれとは様子が違っていた。
肌の色に似せた人工的な色味で隠されたその場所を指先でなぞると、あの瞬間のチクリとした痛みが走るような気がして……。
「見えるトコには付けないでね、か……ったく、誰かさんにも言ってやりたい台詞だわね」
日向は苦く笑うと、ため息混じりに呟いた。
* * *
「うん。大丈夫。今度はちゃんと隠れてる」
そう言って、日向が教室に戻ってきた凛の首元を周りに怪しまれないよう然り気無くチェックしていると、一限目の開始を知らせるチャイムが鳴った。
席を離れていた生徒達が自分の席に着き始める中、教科書と出席簿を持った要が教室へと入って来る。
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