プロローグ

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遥か遠くに感じるその存在。 だが、それは妄想にすぎない。 感じるという錯覚。 ここにいる。 いるはずだというのに、ここにはいない。 目に見える事が存在そのものを存在していると定義するわけではない。 中身がないそれは、傀儡と何も変わらなかった。 形だけの城に、形だけの玉座。 それまで主だった者は、存在の無いものの傍を離れようとしない。 傀儡のためにのみ生きるように見えるそれは、もはやかつての姿を見ることはできなかった。 欲しかったものを得た。 その代わりに、多くのものを失った。 それは徐に傀儡に近づき、その唇に口付ける。 望みが叶ったという達成感はあった。 だが、まだ満たされない。 さらなる行動を取らなければならないというのに、目先の幸福に今は食いついてしまっている。 だが、いずれ戻す。 それが世界の理を害そうとも、何を敵に回そうとも。 時間の逆行、空間の改変、全てが困難であり、不可能と言われてきた。 だが、望みを叶えた以上、これからはそれに専念できる。 もう数百年で悲願はかなうだろう。 だが、今はまだ動かない。 何万年もの思いを、彼にぶつけたかった。
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