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俺の目の前に鎮座しているのは、俺の祖父兼刀(ハカシ)財閥の総帥だったりする。
その、お偉い祖父が皺のある顔を更に皺を刻ませて眉をひそめている。
しん。と静まった座敷に俺と祖父の二人だけが対峙しているさまは、少しだけ滑稽かもしれないな、と沈黙する祖父を目の前にして考えていた。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、祖父は静かに息を吐き出しながら言葉を口にした。
「アキラ、お前には期待は無駄だと分かった日から、微かな望みだけを抱いてきた。」
重々しい言葉は、これまで俺が何度となく聞いた台詞からはじまった。
「しかし。悲しいかな。お前はその期待を強奪し続けてきた。」
濃い森をそのまま布に織り込んだような着物の裾を反し、祖父はまたため息をついた。
さすがというか、何というか。祖父は刀(ハカシ)財閥の総帥だけあって、その着物のは京都の有名店で特別に頼んだものを常に着ている。
俺の父にも自分にも容赦も妥協も無く、そして何より伝統を重んじる人だった。
そんな祖父は、俺が自分が思ったような成績を残すことを気にしてはいない。
けれど、祖父は他者に迷惑を掛ける事にだけは我慢がきかないらしかった。
「よって。アキラ、お前にはその名の通り強者の剣になる事を命ずる。」
「………え?」
そんな祖父が突然俺に命令してきた事がそれだった。
他者の剣となれ。
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