第一話 一期一会

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 木枯らしが木々を打ち、はらはらと紅葉が宙を待つ。何が地球温暖化だ、こんなにも寒いではないか。研究家の理論を軽んじるつもりはないけれど、指先が震えているのは事実だ。  黒い学生鞄を持ち直し、家路を急ぐ。高校を出発したのが二十分くらい前だから、さっきまでのペースで歩くと、到着時刻が七時を越えてしまうのだ。夕飯の支度(と言ってもカップラーメンだが)をして、早く暖まりたい一心。  そうして足早に夕焼けに照らされる道を進む内に、電信柱の陰に茶色い段ボール箱を見付けた。いや、見付けてしまった、と言うべきか。大人がすっぽり入れてしまう程に、大きな大きな、本当に大きな段ボール箱だった。時折揺れているから、何かが入っているのは間違いない。  ――まさか鰐でも捨てた、とか……?  えも言われぬ恐怖を感じつつ、怖い物見たさに足は従い、気付けば段ボール箱の前に立っていた。高校生の平均身長ぴったりの自分でも背伸びをしなければ中は覗けなさそうで、益々好奇心は高まってしまっている。  よく住宅街のど真ん中で誰にも調べられなかったものだ。もしもの場合を考えて、慎重に頭を上げていく。  不思議な事にさっきまでの寒さなんてもう、何処かに吹き飛んでいた。
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