戸惑い

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セミの声が響き渡る。 太陽が照りつける校庭に、一人の男子生徒が陸上部のユニホームを着て走っている。 一生懸命に走るその生徒は、時々こっちの方を向いて微かに微笑む。 そして生徒は何周かし終わると、こちらに歩いてくる。 誰かがタオルを手渡すと嬉しそうに受け取り、汗をふく。 男子生徒は何かを話そうと口を開いた。 ―ピピピッピピピッ 「…ん…」 明るい光が差し込んでいる。 「おはよう。柚子」 カーテンを開けて優哉が近づいてくる。 「…夢…だったんだ」 「夢?なんか見てたの?」 ベッドの脇に座って私の顔を覗き込んでくる。 「うん。でも、思い出せない」 私は目を擦りながら、少し明るく返す。 つまんなそうな優哉の表情に口元をほころばせながら、時計に目を向けた。 「優哉!ごはんの準備とかしないと!」 わざと慌てさせるように声をかける。 予測通りに彼は顔を洗いに急いでいく。 私はクスクス笑いながら、体をお越しベッドから出てキッチンへ向かった。 本当は夢を忘れてはいない。 ハッキリと覚えてる。 夢の内容を聞かれないようにワザと嘘をついたのだ。 久しぶりに見た夢…。 それは、思い出したくもない思い出。 もう吹っ切れたと思ってた。 優哉と出逢って、優哉の優しさに触れてやっと忘れられた思い出。 なのに今さら、今さら夢に出てくるなんて…。
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