8人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
セミの声が響き渡る。
太陽が照りつける校庭に、一人の男子生徒が陸上部のユニホームを着て走っている。
一生懸命に走るその生徒は、時々こっちの方を向いて微かに微笑む。
そして生徒は何周かし終わると、こちらに歩いてくる。
誰かがタオルを手渡すと嬉しそうに受け取り、汗をふく。
男子生徒は何かを話そうと口を開いた。
―ピピピッピピピッ
「…ん…」
明るい光が差し込んでいる。
「おはよう。柚子」
カーテンを開けて優哉が近づいてくる。
「…夢…だったんだ」
「夢?なんか見てたの?」
ベッドの脇に座って私の顔を覗き込んでくる。
「うん。でも、思い出せない」
私は目を擦りながら、少し明るく返す。
つまんなそうな優哉の表情に口元をほころばせながら、時計に目を向けた。
「優哉!ごはんの準備とかしないと!」
わざと慌てさせるように声をかける。
予測通りに彼は顔を洗いに急いでいく。
私はクスクス笑いながら、体をお越しベッドから出てキッチンへ向かった。
本当は夢を忘れてはいない。
ハッキリと覚えてる。
夢の内容を聞かれないようにワザと嘘をついたのだ。
久しぶりに見た夢…。
それは、思い出したくもない思い出。
もう吹っ切れたと思ってた。
優哉と出逢って、優哉の優しさに触れてやっと忘れられた思い出。
なのに今さら、今さら夢に出てくるなんて…。
最初のコメントを投稿しよう!