Ⅰ 風のキャンパス

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 拓哉にはあんなことを言ったけど、親友という関係も、満更でもない。  素直じゃないとよく言われるけど、僕は別にそれでもいいと思う。人に素直に接するのは苦手だ。心臓を掻き回したくなるような、そんなイライラに襲われるからだ。  よく拓哉はそういった、僕なら照れくさがるようなことを平気でさらりと言ってしまう。  僕はそれをうらやましいとも思わないし、そういう風になりたいとも思わない。  素直になれない僕だから、素直な部分を見抜いてくれる人がいればいいだけの話。  拓哉は頭も悪い(成績)し、行動も言動も馬鹿で子供っぽいし、締まりがないし……それでも妙に鋭い時があるから、僕が[演技]ではなくて[嘘]を吐いたときは、すぐにバレてしまう。  それはそれで面白いと思うし、それに拓哉の面白いところは他にもある。  拓哉も絵描きで、僕と同じ部活だし、選択授業も美術にしている。  拓哉の描く絵は、本当に拓哉らしい。比喩やたとえは何もない。  ただ真っ直ぐと、ありのまま、そのまま、描いたものと拓哉という絵描きの全てを絵にぶつけるのだ。  それは簡単で単純なようで、実は難しいことだ。僕はそんな拓哉の絵が、好きだ。  真っ直ぐと心に届く拓哉の絵は、時に感動を、時に喜びを、そして時に悲しみを与えるときもあれば、ただ単純に綺麗、だとか、美しい、だとか、寂しい、だとか、そんなのもありだ。  僕にはない[こころ]だし、僕にはない表現。自分と違うものというのは見ていて面白いし、勉強になるというよりは、ただ単純に面白い。
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