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そして、少しだけ見つめて、少しだけ間をおいて、僕は口を開く。なんだか、拓哉には悪気がないとしても、僕も困っていることをこうやって聞かれると、なんだかイライラする。
「…………うん」
情けない声が、僕の喉を震わせて出た。
「そっか」
拓哉は僕と違って、いい奴だ。鋭いこともあって、僕を責めたりはしない。だけど、僕が間違っていたらとめてくれる奴だ。
僕は、空に目をやる。僕の絵のことだけを聞きたかったらしい拓哉は、それ以上何もいう気配がなかった。
窓越しに見えるオレンジ色の空をぼんやりと眺めながら、僕はそっと口を開いた。
「空を」
会話モードオフになっていたらしい拓哉は、カランッと氷の音を立てて、慌てて頬杖をはずした。その、予想外のことに対応できない様をチラリと横目で見て、また目を戻す。
「え? っと、何?」
「空を描いたことがあるよね?」
「あ、ああ、うん。結構前だけどね、へへっ」
何が照れくさいのかは知らないが、照れくさそうに頬を緩ませ、襟足を撫でる拓哉。
「……僕は」
「う、うん?」
「僕は、何か当たり前なものが描きたいんだ」
「ほえ~? そら初耳だ。で? オレの空と何か関係があるの?」
興味深そうに、目をキラキラさせて見てくる拓哉。視線がまぶしい気がして、チラッと拓哉を見る。本当にあどけない、単純な奴だと思う。
そんな拓哉にため息を鼻で漏らして、ストローからリンゴジュースで喉を癒す。
ああ、やっぱりおいしい。
だけど氷の解けた水と混ざって、少し薄いような気がする。コップは水滴で濡れていて、そっと触れた指先に水滴がつく。
「あの空、きみはどんな風に描きたかったのかと思って」
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