Ⅰ 風のキャンパス

14/23
前へ
/64ページ
次へ
 実際拓哉はそういう奴だ。夢で神様に会った、とか言い出したかと思えば、夢で見た神様を描いたり。  町でとびきり綺麗な女性を見つけた、とはしゃいでいたと思えば、その人の印象そのものを人物画にして描いたり。  直感で、描きたくなったら描く。描きたくないものは描かない。だがスランプという文字を知らないことが、拓哉の恐ろしいところだ。  しかもジャンル、というのだろうか。描いているものが本当に直感的で、空想もあれば風景もある、人物もあれば、動物もある、町並も描くし、読んだ小説の印象だとか、テレビで印象に残ったものだとかも描く。  僕が、身近なものが描きたいという『テーマ』が、拓哉にはないのだ。『テーマ』といえばそのまま、自分が描きたいもの、なのだろう。  空を飛んだ夢を見た、という話は聞いたようで聞いていない気がする。いちいち人の夢の話を覚えていたって役には立たないし、それも随分前――六ヶ月くらいは前だった気がする。  だけど、夢の話を聞かされるのは事実だ。ファンタジックで幻想的なものもあれば、誰かが死んだ、だとかやけに現実的で悲劇的なものもある。  それを話せるほどに覚えていると言うのもすごい話だと思う。 「よくわかったね! あれ、オレ陽輝にその話したっけ?」  不思議そうに首を傾げる拓哉は、やっぱり幼げに見える。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加