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「そんなこといちいち覚えているわけないだろ? きみも覚えてないことが僕も覚えてる訳がない」
というのは微妙に嘘だ。僕は基本的にどうでもいいことは忘れてしまう。そう、たとえば拓哉の夢の話だとか。
だけど印象に残ったもの、パターン化しているものは覚えている。拓哉もそんな感じだが、拓哉の場合ほとんどが楽しかったこと、感動したこと、嬉しかったこと、だ。
「なんだよソレー。オレが記憶力ないみたいじゃんっ」
むぅと拓哉が口を尖らせる。
「実際記憶力なんてないじゃないか。記憶力があればテストの点数ももっと上がるんじゃないのか?」
基本的に僕は勉強が好きだし、絵のことを本格的に学べる大学進学を目指しているから、それなりに学力や単位も必要だ。
「うぐっ……違う、オレは勉強してないだけだ!」
ぶんぶんと首を横に振って、まるで自分に言い聞かせるように、拓哉は慌てていた。
「僕だってしてないさ。授業で聞けば覚えるだろ?」
「それは陽輝だけじゃんっ」
「ああ、そうか、きみはそもそも授業事態聞かないのか」
はぁ、とわざとらしくため息を吐いてやり、僕は頬杖をついたまま目線を窓の外に戻す。
「いや! ちゃんと聞いてるもん」
「もんとか言うな、気持ち悪い」
横目だけで陽輝を見て、僕は少しだけ吐き捨てるように言う。こういう会話は嫌いではないけど、必要じゃないと思う。
まぁ……つまらなくはないのだけれど。
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