Ⅰ 風のキャンパス

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 けれど、スケッチブックの感触も、湿った草の絨毯の感じも、別に気に掛けるほどじゃない。  空気ほどではないけど、僕が当たり前としていることだから。  普段は気に掛けないし、違和感も何もない。  それは僕だけじゃなくて道行く人達も皆、そう思うことなのだろう。  座ることに違和感を持ったりしないだろうし、いつも使う紙に触れた感触に違和感を感じたりはしない。  感じても、わざわざ追求してしまうことなんて、しないだろう。  でも僕は時折、ひどくそれを追求したくてたまらなくなる。  空気を感じれない、風を掴めない。  それをこうして空に手を伸ばす度に。  身につけている衣服の感じ。  膝に置いているスケッチブックの感じ。  小さな風に少し揺れる自分の髪の感じ。  湿った草の絨毯の感じ。  靴の感じ。  どうして空気は感じることが出来ないのに、これらは感じられるのだろうか。  どうして風は掴めないのに、服は、紙は、髪は、草は、靴は――、こうして指先から触れることが出来るのだろうか。  空気があまりにも当たり前すぎるから。  わかっている。  だったら今感じているもの――例えば、紙なんかをずっと、空気のように触れていたら、感じなくなるのだろうか。  そうは思うけど、僕にはずっと紙を指先に触れたまま固定して生きようとは思えないし、思っても実際行動に移すほどでもない。
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