Ⅰ 風のキャンパス

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 だけど空気や風に手を伸ばして触れることが出来なくても触れようと、つかもうとする度に、それらが気になって仕方がない。  ふぅっと、小さく鼻から大きめに息を吐いて、ため息をつく。  真っ白なままのスケッチブックを見下ろして、今度は口からため息が出た。  我ながら大きなため息に、更に落胆する。  ため息なんて、ほとんど無意識なうちにしてしまうものだ。  僕が思うに、モヤモヤとする胸の何かを吐き出そうと、息をたくさん吐いてしまうのがため息だ。  モヤモヤとする胸の何かは、別にマイナスじゃなくたってプラスの感情もありだ。  だけど今の僕にはプラスを感じる要素はない。  漠然とした疑問と、真っ白なままのスケッチブック――何か描きたいがためにここに座っているのに、未だに手元のスケッチブック。  ページはどれも白いまま。  描きたい。  描かなくてはいけない。  だけど、何を描いたらいいのかわからない。  描きたいものもない。  だから何か浮かぶかなと、この広く自然が多い公園で時間を潰している。  こんな状況が、確か一ヶ月ほど続いている。  スランプと言うのだろうか。以前は花や人、動物や木など、ありきたりではあるが描いていた。  それで、以前使っていたスケッチブックは絵でいっぱいになった。  だが、スケッチブックを新しくして、何を描こうかと思い、何も描きたいものがなくなってしまった。  多分スケッチブックを新しくした直後だったのに理由はないと思うし、単なる偶然であるのだろう。  それでも、一ヶ月間ほどどのページを開いても白紙なのは、見ていていい気はしない。  憂鬱だ。  憂鬱の象徴、と僕は思っている大きなため息を、もう一度吐き出す。
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