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「え、無視? オレのことわかるっ? 陽輝の親友だよ?」
抱きつかれているせいか、そいつの顔は僕の顔の隣にある。耳元で大きな声で叫ばれるものだから、思わず耳を塞ぎたくなる。
少し硬めの黒髪は短く、もう高校生だというのに、随分とあどけなさの残るそいつ――拓哉(たくや)は、性格と外見にギャップはなく、期待を裏切らないというか、わかりやすい奴だ。
僕的には扱いやすくていいのだが、痛々しいというのだろうか、見ていて見苦しい時は多々ある。
僕はたっぷりと皮肉を込めて、眉根を寄せて後ろに振り返ろうと首を動かす。
すると、拓哉はやっと反応してくれる、と思ったのか気の抜けた笑みを浮かべて僕から手を離し、一歩小さく後ろに下がった。
僕が真っ直ぐとそいつを見つめて、わざと首を傾げる。これでも人を欺くくらいの演技力はあるつもりだ。
「すみません、誰かと勘違いしてませんか?」
我ながら中々だと思うほどに迷惑そうな声が出て、僕は心の中でほくそ笑む。
そのときの拓哉の顔ったらない。
キラキラとしていた黒い瞳は輝きを失って、少し細めだった目が開かれる。口なんか、半開きになっていて、本気で絶望したような顔だった。
これには流石に、笑うとかの前になんだか悪いことをしている気になってしまう。
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