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僕の悪ふざけの演技に本気で騙されてくれた拓哉に、僕はぷっと小さく吹き出して、自然に口元が緩んでしまった。
あぁ、いけない、笑ってしまったと思い、でもやはりおかしくて、口元を押さえて、くつくつと喉の奥で笑いを押し殺した。
それでもやはり緩む頬は戻せなくて、僕が吹き出した瞬間にそいつの絶望していた表情は呆れたような、ふわっと一気に締まりのない顔に戻った。
「ひどっ! オレ本気で記憶喪失か何かかと思って……」
ふにゃあ、と泣きそうなくらい情けない顔をした拓哉。
それが更におかしくて、僕はついに声を出して笑ってしまう。
すると、段々と情けない顔が怒ったような顔になってきた。だらしなく緩んでいた頬は強張り、眉根をグッと寄せて、眉間に皺を作った拓哉。
「そんなに笑うなよ! オレは怒って……」
「ふ、ははっ、ごめんごめん。まさかここまですんなり騙せちゃうなんて思ってなかった」
否。思っていた。
だがそんなこと言ったらなんとなく拓哉がかわいそうだったから、僕はあえてやめてあげたんだ。
僕の笑いがようやく引いて、僕はふぅっと小さく息を整えて、真っ直ぐとそいつの目を見る。まだ怒ってるみたいだ、いや、やっぱりやりすぎたのだろうか。
「僕がきみのことを忘れるはずないだろ?」
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