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「で、ここで何をするの?」 「――よくぞ聞いてくれました!!」 数秒前まで無知の参加者を気取っていた彼女は「待ってました!」とばかりに一転して主催者の顔になる。 自信と期待に満ち溢れた眼球はまっすぐに俺を捉え、両足は肩幅よりも少し広く、細く脆そうな脚からかき集められたエネルギーは屋上をすら踏み抜かんと太ももから脹脛(ふくらはぎ)、踝(くるぶし)を通り2本の巨木を支える根として息づく10本の指へと疾走する。 やや斜に構えられたギターはベルトによって肩から下げられ右手で固定、残った左腕は固く握られ、唯一、人差し指だけが力強く空を貫き、目指すところは天、と言わんばかりに高く高く突き上げられたその手はゆっくりと下げられていく、静かに、だが力強くこの俺の顔の高さまで下げられたその指先にただ圧倒されるのみだ。 見た目華奢な彼女には失礼ながら少々似つかわしくない闘気に満ち溢れた一連の動きに呆気に取られつつ、それでも言いようのない高揚感を覚えた俺の身体が、肌が、目が、耳が、髪の毛の一本一本が彼女の次なる言葉を待つ。 「私はね、常々思ってた。TVにかじりついて韓国VS日本9回裏まさかの同点、そして奇跡の10回表華麗なる勝ち越しに涙もしたし、今更死して尚神の一手を極めんとするその気高き精神を少年漫画という舞台で描く作品に心震わされもした。でね、思ったんだよ。私も自分を変えてみたい。こんな風に1つのことに打ち込んで誰かに楽しさや夢や感動を与えたい、って」 まくし立てるように喋った後、一息。彼女の演説は終わらない。 「だからね、今日この日、白土西高校の学生となったこの瞬間から、思いっきり頑張ってやろうって決めたの!踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らなきゃ損なんだよ!」
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