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少なくとも、楽器を愛していないことだけは確定できたので、俺の中に住み始めた親近感は今すぐ荷物を纏めて出て行ってもらうことにする。
そのままルームシェアを許すほど世界は甘くできてはいないのだ。
「――で、君はここで何してんの?」
大きな瞳を更に大きく見開いたまま、彼女は小首を傾げて1歩俺に近づく。
女の子っていうのは、計算してポーズを決めてくるときがあるのだと、この時の俺は知らない。
その可愛らしさと近さに心を鷲掴みにされ、支倉太一という草食動物にもはや黙秘権などなかった。
「ぼ、僕は――、いや、俺は入学式をサボってんだよ……」
「おー……、おーおーおー!!かぁーっくいいねぇ!!やるぅ!!」
あれだけ興奮していた心は見る影もなくなっていた。今更ながら人に自慢話として胸を張るには事象が小さすぎるんじゃないかと妙に冷静になる。
だっていうのに、彼女は嬉しそうに笑っていた。何が凄いのかも、カッコイイのかも分からない。
けど、少しだけ手に力がこもるような。
そんな、気がした。
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