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そんな俺の心の中を見透かしそれ以上問うまいとしたのか無視したのか、彼女はくるりと回れ右、両手にギターを構えなおした。
「入学式をサボる……そんな度胸溢れるオメーにご褒美だ。特等席でしっかり聞いとけ」
顔半分だけ振り向いた彼女は、大胆不敵に笑っていた。
その目には自信しか宿っていない。不安、怯え、恐怖。そんなものとは無縁の瞳。
真上に飛んでキックを放つ改造人間、胸の星が点滅を始めてからしか本気を出さない正義の宇宙人。
そんな大人の事情など知らなかった、鼻水を垂らして手に汗を握り無条件に心を沸かせたあの興奮。
――それが今、再び俺の全身を駆け巡った。
「良い夢、見せてやんよ」
入学式が終わる予鈴が鳴り響く。無音だった屋上に、入学式を終えた新入生の喧騒が届く。
それがステージの始まりの合図。
彼女はギターを抱えているとは思えないほどの初速度で駆け出し、そのまま事故防止用のフェンスに跳躍する。
派手な音が屋上に響き、次の瞬間に彼女は数秒前と同じように直立していた。
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