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とりあえず、無駄に高い所を好む。と相沢は俺に教えてくれた。 だから屋上に向かった。足取りがやけに軽いのは、やってやるぜ、やってやるぜ!という俺の心に住む少年が、拝借した自転車で走り出してしまうくらいに興奮していたからだろう。 実際、何が変わるわけでもない。と現実を理解したのはすぐだった。 少年は自転車をキチンと元の場所に返し、背中を丸めて帰っていく。 その若さで哀しみを知るか、俺の心よ。 屋上に来たところで不思議少女がいるわけでもモンスターが襲ってくるわけでも校長と教頭の逢引を見てしまったわけでもない。 ただ視界いっぱいに広がる青一色が出迎えてくれただけだったのだ。 しかし、入学式の開始を知らせる予鈴が鳴り響いたことで少年は再び元気を取り戻す。 今頃他のやつらはお利口にパイプ椅子に腰掛け、今後関係を持つ事は皆無であろうお偉い来客の方々の話を長時間聞かされる、という苦行を味わうのだ。 それに比べ、今の俺の環境の何と素晴らしいことか。皆が苦行に耐える中、俺は一人青空を独占し、ちょっと視点を下げればお花見に勤しめるという絶好のスポットでのんびりと過ごすのだ。なんだか無性に笑いたくなる。
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