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振り返っても誰もいない、でも視線をちょっと上にするだけですぐに事態は飲み込めた。 給水タンクの上に、仁王立ちした女の子がいる。 さっきまで可哀想な音を奏でていたギターを両手に抱え、女の子は満面の笑みで俺を凝視していた。短パンをはいていたのはちょっと残念だ。 「私の高校デビューにようこそ!!やーやーやー、私の一人目のお客さんがまさかこんなに早く来ちゃうとはね!今は入学式の真っ最中、なのにここにいるという事は君も私と同類だということだね?ん?」 それなりの高さがある給水タンクから躊躇いもせず飛び降りた彼女は、振り返るだけで精一杯だった俺のところへ歩み寄ってくる。 だというのに俺は動けない。彼女が近づいてくることでその金縛りは更に強固なものへと変わっていく。 正直に言おう、俺は彼女に見とれていた。 小さな顔はほんのりとミルク色、歯を立てればなんの抵抗も無く噛み千切れてしまいそうな瑞々しい頬が俺の目を奪う。 ギターが悪質な凶器に見えてしまうほどに身体は華奢で、後ろに纏められた淡い栗色の髪は春風に揺れ、向こう側の景色が見えるのではないか、と思うくらいに透き通っている。 そんなか弱き少女のイメージを演出しているクセに、その目はエネルギーに満ち溢れ爛々と輝き、それでも尚治まりきらない分は開いた口から漏れているのだろう、何がそんなに嬉しいのか真っ白な歯が眩しいくらいに俺を直撃する。 笑顔が眩しい、比喩でなく。
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