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「――レム?」
ぎしぎしと、吹き飛ばされた左手なしで、彼女は男の剣を受け止めていた。
「どうして、かわしてしまったんだ……お嬢様」
吹き飛ばされた付け根が、彼女の頭を激しくぐらつかせる。
だが、それ以上に、彼女は混乱していた。
「どうして、何故だ、レム!?」
一瞬だけ、一言目に見ることの出来た彼の表情も、今は失せていた。
彼にも変わらず、右胸に魔力心臓が埋め込まれている。
否応なく目に入るそれが脈打つたび、リコフェリアには自身のものにおいても、血管が張り裂けんばかりの拍動を感じていた。
相変わらず力だけは込められている。
だがその軋む音とは別の場所、彼の意識は未だ、相手の一部にばかり向けられていた。
「それがあんたの、生き残るために選んだ道か」
普段見慣れたものの変化は、誰であっても目を引かれる。
だが彼にとって、とりわけ絶対魔法という変貌だけは、気に留めずにいることは出来なかった。
「お前の言った言葉を、私は不思議にも心に留めていたよ。だが何だ、この状況は……ぬかったよ、よもや内側の者に持っていかれるとは」
彼女なりに、精一杯の強がりを言ったつもりだった。
わざとに軽薄そうな笑みをおまけしている。
だがその甲斐あってか、レムは彼女の言葉に、ようやく金色に光る瞳から目を逸らすことを思い出していた。
気付けば彼女の顔色は、既に人の気を感じないほどに青白い。
研究に入り浸っていた頃にも、レムはそんな彼女を見たことがなかった。
「いい加減に、引け、この阿呆奴隷!」
間の抜けたような表情を盗み見る。
その隙を突いて、リコフェリアは相手の蒼い剣を薙ぎ払い、可能な限りの速度でレムを射ぬかんとした。
強引でも自身が引こうとしなかったのは、彼女が未だ、レムの従属を疑わなかった故のこと。
彼が取った一連の行動理由は、想像に難くない。
けれどそれを、彼女は認めたくなかった。
存外大人しく引いたレムを前に、けれど彼女はそれでも膝を着けようとはしない。
器用に、けれど頼りなく双剣の一本を手にしたまま、肩口の応急処置を始めていた。
「お前はやはり、甘ちゃんだな……脅されているのなら、さっさと今のうちに私を殺せば良いのに……誰の命令かは、もう、聞きたくもない」
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