第十七章、不機嫌な太陽

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――戦後。       開戦から十八日目の夕刻、実質十七日間に及んだ激戦の末、セントダリス王国には、ライズ兵団長による勝利宣言の報せが届いていた。 歓喜に沸くダリス領全土。 王を讃え、兵を誇り、そして勝利が示す平和の奪還に皆、涙していた。 待ち望まれていた王国軍の凱旋は、けれど勝利宣言が為された後、四日経ってからという異様な遅れを見せる。 王に届いた伝令は公開されることがなかったものの、謎の現象によって混乱が生じたとのことだった。 民も大戦が終結した日、東の空が光り輝いているのを見たと言う。 焦がれるようにして、国民のみならず、王も不安を抱きながら、兵の帰還を待っているのだった。 光のことだけでなく、時間的な間隔も相まって、民の中にも一抹の不安を覚えた者がいただろう。 だがぼろぼろの、けれど達成感と充足感、そして国を守ったのだという喜びに打ち震えたような兵士達の表情を見た時、それは彼らの中、跡形もなく消え去っているのだった。 帰還完了を報告したハロルドとライズ、そしてその時の王が見せた表情も、ひとまず終わったのだという、この上ない安堵が浮かべられていた。 今ひとたびの原因追及を逃れたハロルドは、感じていた安堵の、その奥でさらに安堵しているのだった。 しかしそれもまた、二日前の話――。 「ご静聴願います」 厳かな空間の中、それに見合った男の重低音が木霊する。 時は戦火終結から四日後の正午、場所は両国中間点に位置する、国家元首対面の聖地、精霊廷。 今ここに、セントダリス王国国王を始めとする国の重鎮たちが、一堂に会しているのだった。 勝利国、セントダリス王国の軍最高司令官――ハロルド=ディナフォロンが、この一切を取り仕切ることになっている。 左眼に眼帯。 思慮深き深緑の右眼が、ゆっくりと、可能な限りの視界を巡っていた。 王国は西側に、帝国は東側に位置している。 そのちょうど真ん中のラインには、マグナディア山脈から湧き出る清澄な水が流れていた。 小さく奥ゆかしい造りであるそれは、決して曲がることなく、一直線に両陣営の間を走っている。 ――両国において、水は調和の象徴だった。
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