始まりの刻

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すでに体は限界に達しようとしており、足はガクガクで立っているのも正直しんどいといった状況だ。 にも関わらず、何かとやりすぎる師匠は手加減なんて生易しい言葉を知っているわけがなく、グランはさらに容赦のない打撃に晒されてしまう。 もはや牝虎に追い立てられる哀れな小動物となったグランはもう何度目かもわからない転倒の時、偶然にも先ほど逃げられた愛用の木剣を捉えることができた。 体力的にも、あと数回だけ振るのがやっとだろう。こうなったらもう防御のことなど一切考えず、とにかく攻めに出た方がいい。 立ち上がったグランは手にした木剣を強く握りしめ、ウルスラの木剣が振り下ろされるタイミングに合わせて渾身の一撃を見舞う。 「うあああっ!」 「おっ?」 力の限り振り抜かれた木剣は反射的に防御の構えを取るウルスラの得物と正面から打ち合わされる。 とっさに姿勢を変えたために握りが甘かったのか、グランの放った一撃はウルスラの手から木剣を打ち払った。 勢いよく転がっていった木剣はかなり距離が離れた位置でようやく停止したが、すぐに拾い上げることは不可能だ。 形勢が逆転したこの瞬間を逃す手はない。今までに辛酸を舐めさせられ、いや無理矢理飲まされてきたことは数知れず、これに乗じて仕返しをすることだって今を限定にこちらの思うがままなのだ。 先ほどのお返しとばかりに振り抜いた状態からグランはさらに一歩を踏み込み、手始めにまずは自分と同じところに瘤を作ってやろうと木剣を振りかぶる。 いくら師匠と言えど、頼みの武器が無くてはこちらの攻撃を防ぐことなど出来はしないだろう。 初勝利を確信して思わず嬉々とした笑みを浮かべちゃってるグランだったが、そこで想定外の出来事が彼を襲った。岩でも砕けそうな雰囲気と勢いで振り下ろされたグランの木剣はウルスラの長い経験が見せる紙一重の見切りによって避けられ、目標の寸前で虚空を薙いだ。 そのまま息をつく暇を与えずに次の攻撃へと移らなければならないと頭では理解していたのだが、なにしろこちらの体力は先ほどの一振りで全て使い切ってしまっていた。 その瞬間をウルスラが逃すわけがなく、素早い動作でグランの両手首を掴むと抵抗することも許さずに捻り上げ、懐に身を潜り込ませる。
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